アメリカ大規模な税制・歳出法案「一つの大きく美しい法案」の光と影:490兆円の財政悪化で懸念されること

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7月4日、ドナルド・トランプ大統領が推進する大規模な税制・歳出法案「一つの大きくて美しい法案」(OBBB:One Big Beautiful Bill)が成立されました

アメリカ連邦議会下院では賛成218票、反対214票の僅差での可決っと議論の多い法案でしたが、7月4日のアメリカ独立記念日に間に合わせたようです

この「美しさ」の裏側には、10年間で約490兆円(3.4兆ドル)という巨額の財政赤字の拡大、そして富裕層や企業が恩恵を受ける一方で、トランプ支持の多い低所得層には厳しい内容になっている、という複雑な現実があるようです

そして、この巨額の財政赤字が、これまで「世界で最も安全な資産」とされてきたアメリカ国債の信用を揺るがし、ひいては世界の経済全体に「波乱の嵐」を巻き起こすのではないか、そんな懸念が広がっているニュースです

「国の借金」はなぜ怖い?〜アメリカの財政赤字が膨らむ仕組み〜

「財政赤字」という言葉の重みについて考えてみましょう

皆さんの家計に例えてみましょう

もし、お父さんやお母さんが稼ぐお金(収入)よりも、使うお金(支出)の方がずっと多くなったらどうなりますか?

最初は貯金を取り崩したり、少し借金をしたりするかもしれません

でも、それがずっと続けば、やがて貯金は尽き、借金は雪だるま式に膨らんで、家計は破綻してしまいますよね

国も同じです

国が「財政赤字」になるというのは、「税金などの収入」よりも、「国のサービス(医療、教育、防衛など)や公共事業にかかる支出」の方が多くなり、足りない分を「国の借金」で補っている状態を指します

この「国の借金」が「国債(こくさい)」と呼ばれるものです

今回のトランプ氏の「一つの大きく美しい法案」では、この財政赤字が大きく膨らむ見込みです

その理由は、大きくの二つの要素が同時に進行するからです

 大規模な「減税」

特に富裕層や企業への減税で、国に入ってくる税金が大きく減ります

まるで、家計の収入源(お父さんの給料)が大幅に減るようなものです

 「歳出削減」の限界

一方で、低所得者向けの医療保険(メディケイド)などを削ることで支出を減らそうとしますが、その削減額は、減税による収入減の規模に全く追いつきません

これは、家計で食費を少し削っても、収入が半分になったら赤字は解消しない、というのと同じです

結果として、アメリカの財政は、今後10年間で約490兆円という、とてつもない額の赤字が増える試算が出ているのです

これは、過去のどんな大型法案と比べても「巨額」だと指摘されています

 「安全神話」は揺らぐのか?〜アメリカ国債の信用格付けと投資家の目〜

国の借金が増えることが、なぜ私たちの心配事になるのでしょうか?ここで重要になるのが「国債の信用」という考え方です

アメリカ国債は、これまで「世界で最も安全な資産」と言われてきました

なぜなら、世界最大の経済大国: アメリカ経済が非常に強いため、国がお金を返す能力が高いと信じられていました

世界の基軸通貨「ドル」: アメリカドルは、世界の貿易や金融取引で最も使われる「基軸通貨」です

万が一の時でも、アメリカ政府はドルを刷って借金を返せる、という安心感がありました

安定した政治・法制度: 政治が安定しており、法律に基づいた経済活動が行われているため、投資家は安心して国債を買うことができました

しかし、巨額の財政赤字が続くことは、この「安全神話」を揺るがしかねないのです

 格付け会社の厳しい目

国債の信用力は、S&P、ムーディーズ、フィッチという世界的な「格付け会社」が評価し、ランク付けしています

この格付けは、企業で言えば「信用度」のようなもので、格付けが低いほど「お金を返せるか不安な会社」と見なされます。

実は、すでに大手格付け会社は、複数回にわたってアメリカ国債の格付けを最高位から引き下げています。

直近でも、ムーディーズが2025年5月に米国債の格付けを1段階引き下げており、これにより主要3社すべてが最上位の格付けを剥奪した状態になっています。

理由としては、「財政赤字の拡大」や「債務の急増」が挙げられています

これは、彼らが「アメリカは以前ほど財政的に盤石ではないかもしれない」と見ている証拠です

 投資家の心理と国債の価格・金利

格付けが引き下げられたり、財政が悪化したりすると、投資家はどう考えるでしょうか?

「本当に大丈夫?」という不安: 「アメリカ政府は本当にこれだけ増えた借金を返せるのか?」という不安が生まれます。

 リスクがあるなら、もっと高いリターンを

不安を感じた投資家は、アメリカ国債を買うのをためらったり、買うとしても「もっと高い利回り(金利)」を求めたりするようになります

 投国債価格の下落

利回りが上がると、国債の価格は下がります

つまり、財政赤字が膨らみ続けることは、アメリカ政府が新しく国債を発行してお金を借りる際のコスト(金利)が高くなることを意味します

そうなると、さらに借金が増え、ますます財政を圧迫するという悪循環に陥る可能性もあるのです

 アメリカ国債の信用低下が私たちに与える影響〜「波乱要因」とは?〜

アメリカ国債の信用が低下することは、アメリカ国内だけの問題にとどまりません

世界の経済、そして私たちの生活にも、さまざまな形で影響が及ぶ可能性があります

(1) 世界経済の不安定化

アメリカ国債は、世界中の銀行、投資家、中央銀行などが保有する「安全資産」の代表格です

もし、その信用が揺らげば、世界中の投資家が不安になり、株式市場が不安定になったり、為替相場が大きく変動したりするなど、グローバル市場の「波乱要因」となる可能性があります

 株価の下落

投資家がリスクを避けて株を売る動きが強まるかもしれません

ドル安・円高: アメリカの信用が落ちれば、ドルの価値が下がり、円の価値が相対的に上がる(円高になる)可能性があります

これは、日本の輸出企業にはマイナスに働くこともあります。

 金利の上昇

世界中の金利の基準となるアメリカの金利が上がれば、日本を含む他国の金利にも上昇圧力がかかり、住宅ローンや企業の借入金利にも影響が出るかもしれません

(2) 日本の財政への影響

アメリカの財政悪化が世界の金利上昇を招けば、日本の国債の金利も上がってしまう可能性があります

そうなれば、日本政府が国債の利息として支払う金額が膨らみ、日本の財政もさらに厳しくなることになります

これは、将来、私たちの税金負担や社会保障サービスの質に跳ね返ってくる可能性もあるのです

(3) 社会の不安定化

今回のように、特定の層(富裕層や企業)が恩恵を受ける一方で、別の層(低所得層)が負担を強いられるような法案は、社会の中で「格差」を拡大させる可能性があります

格差の拡大は、社会の分断を深め、治安の悪化や社会不安を引き起こす要因にもなりかねません

 【まとめ】「美しさ」の裏にある「現実」を見つめる

トランプ元大統領が「一つの大きく美しい法案」と呼ぶこの政策は、確かに一部の(アメリカ人)人々には「美しい」減税という恩恵をもたらします

しかし、その裏側で、巨額の財政赤字の拡大という非常に深刻な問題を抱えています

この財政赤字は、

  ・アメリカ国債の信用を揺るがし、国債の金利上昇や価格下落のリスクを高める

  ・世界経済の不安定化を招き、株価や為替に影響を与える

  ・日本の財政や社会の安定性にも間接的に影響を及ぼす

といった、多岐にわたる負の側面を持っています。

今回の「一つの大きく美しい法案」の成立は、アメリカの、そして世界の財政と経済の行方を占う上で、非常に重要なターニングポイントとなるでしょう