パスワード時代の終焉?Microsoftが推進する「パスキー」への移行と、私たちのセキュリティはどう変わるのか

セキュリティ

今月、マイクロソフトが提供する認証アプリ「Microsoft Authenticator」のパスワード自動入力機能が利用できなくなります

そして、来月(2025年8月)には、Authenticatorアプリに保存されていたすべてのパスワードが使えなくなるという、デジタルセキュリティにおける大きな転換点が訪れようとしています

これは、マイクロソフトが「パスワード」という長年使われてきた認証方法から、より安全で便利な「パスキー」へと全面的に移行を進める動きの一環です

「パスワードを使わなくなるってどういうこと?」「急に言われても困る…」そう不安に感じている方もいるかもしれません

今回のマイクロソフトの動きは、私たちのデジタルライフにおけるセキュリティのあり方を根本から変える、非常に重要な変化だと捉えています

今回は、このパスキーへの移行がなぜ必要なのか、パスキーとは具体的にどのようなものなのか、そして私たちユーザーはどのようにこの変化に対応すべきかを、CNETの専門家の見解も交えながら、解説していきます。

 なぜ「パスワード」はもう危険なのか?デジタルセキュリティの盲点

パスワードは、インターネットが普及して以来、私たちのデジタルな身元を証明する最も一般的な方法でした

しかし、その手軽さゆえに、多くのセキュリティリスクを抱えています。CNETの調査(米国成人対象)によると、49%もの人が危険なパスワード習慣を持っているとされています。

主な問題点は以下の通りです。

 使い回しのリスク

複数のサービスで同じパスワードを使い回す習慣は非常に危険です。もし一つのサービスからパスワードが流出した場合、他のすべてのサービスも芋づる式に不正アクセスされるリスクがあります

 推測されやすいパスワード

誕生日や名前、単純な単語など、推測されやすいパスワードを設定する人が少なくありません

これは「ブルートフォース攻撃」(総当たり攻撃)や「辞書攻撃」によって容易に突破される可能性があります

 フィッシング詐欺の脅威

偽のウェブサイトやメールで、ユーザーを騙してパスワードを入力させる「フィッシング詐欺」は、いまだに主要な攻撃手法です

 クレデンシャルスタッフィング攻撃

流出したユーザー名とパスワードの組み合わせを大量にリスト化し、様々なウェブサイトで試行する攻撃です。使い回しをしているユーザーが標的になりやすいです。

これらの問題は、私たちがどれだけ気をつけていても、人間がパスワードを記憶し、管理するという行為そのものに内在する脆弱性と言えるでしょう

金融機関のシステムにおいても、認証はセキュリティの要であり、パスワードの限界は常に大きな課題でした。

「パスキー」とは何か?パスワードを超える「究極の鍵」

パスワードの限界を克服するために開発されたのが、「パスキー」です

これは、FIDO(Fast Identity Online) Allianceという業界団体が作成した新しい認証技術で、CNETのデジタルセキュリティ専門家であるアティラ・トマシェック氏も、「パスワードよりも安全な代替手段」だと強く推奨しています。

では、パスキーとは具体的にどのようなものなのでしょうか?

 公開鍵暗号方式の利用

パスキーは、ユーザーを認証するために「公開鍵」と「ローカルに保存された秘密鍵」の両方を使用します

ユーザーがアカウントにアクセスしようとすると、サービス側から送られてくるチャレンジに秘密鍵で署名し、その署名を公開鍵で検証することで本人確認を行います

 デバイス固有の認証

パスキーは、サーバー側ではなく、ユーザーが使っている個人のデバイス(スマートフォン、PCなど)にのみ保存されます

これにより、パスワードのようにサーバーから一括して流出するリスクが激減します

 生体認証やPINとの連携

パスキーを利用する際には、デバイスに保存された秘密鍵にアクセスするために、指紋認証、顔認証(Face ID)、またはPIN(暗証番号)といった、デバイス独自のセキュリティ機能を使います

これにより、パスキーそのものが外部に漏れても、本人の生体情報やPINがなければ使えないという二重の保護が実現します

 パスワードと比較したパスキーのメリット

トマシェック氏が指摘するように、パスキーは従来のパスワードに比べて、以下のような点で優れています。

 フィッシングに強い

パスキーは、特定のウェブサイトのURLと結びついています

偽サイトに誘導されても、パスキーは正規のサイトでのみ機能するため、騙されて情報を入力してしまうリスクが大幅に減ります

 ブルートフォース攻撃、クレデンシャルスタッフィング攻撃に強い

パスキーは推測されることがありませんし、サーバー側に保存されないため、攻撃者がパスワードリストを入手して不正ログインを試みる攻撃も防げます

 パスワードを覚える必要がない

複雑なパスワードをいくつも記憶したり、パスワードマネージャーに頼ったりする必要がなくなります。指紋や顔認証でログインできるため、ユーザー体験が大幅に向上します

このように、パスキーはセキュリティと利便性を両立させた、まさに「次世代の認証技術」なのです

Microsoftのパスキー移行スケジュールと私たちユーザーがすべきこと

マイクロソフトは、今後以下のスケジュールでMicrosoft Authenticatorにおけるパスワードサポートを停止し、パスキーへの移行を促します

 2025年7月

パスワードの自動入力機能が使用できなくなります

 2025年8月

Authenticatorに保存されていたすべてのパスワードが使用できなくなります

この変更は、Microsoftアカウントだけでなく、Authenticatorをパスワードマネージャーとして利用している他のサービスにも影響します。

 ユーザーが今すぐすべきこと

マイクロソフトは、ユーザーがスムーズにパスキーへ移行できるよう、いくつかのサポートを提供しています。

 パスキーへの登録を促す通知

マイクロソフトによると、アカウントにパスワードと「ワンタイムコード」(多要素認証コード)が設定されている場合、サインイン時にパスワードではなくワンタイムコードでのログインが求められ、その後パスキーの登録を促されるとのことです

 既存の認証情報でのログイン

パスキーを設定するには、まずAuthenticatorアプリを開き、アカウントをタップし、「パスキーを設定」を選択します。この際、既存の認証情報(パスワードや多要素認証)でログインする必要があります

 Microsoft Edgeへの保存(非推奨)

もしどうしてもパスキーではなくパスワードを使い続けたい場合は、Microsoft Edgeブラウザにパスワードを保存しておくことも可能です

しかし、CNETの専門家は、この移行期間中にパスキーを積極的に導入することを強く推奨しています

Edgeに保存されたパスワードは、デバイスが侵害された場合のリスクが残るため、パスキーほどの安全性はありません

金融機関のシステム導入では、新しい認証方式への移行は常に慎重に進められます

マイクロソフトがこのようなスケジュールで強制的に移行を進めるのは、パスワードのセキュリティリスクが看過できないレベルに達しているという強い危機感の表れだと言えるでしょう

【まとめ】パスワードレス時代への第一歩、備えあれば憂いなし

Microsoft Authenticatorにおけるパスワード機能の停止は、単に一つのアプリの仕様変更にとどまりません

これは、マイクロソフトが主導する「パスワードレス社会」実現に向けた、非常に重要な一歩です

私たちが長年慣れ親しんできたパスワードは、確かに手軽でしたが、その裏には多くのセキュリティリスクが潜んでいました

パスキーは、そのリスクを劇的に軽減し、同時にユーザーの利便性を高める、まさに未来の認証技術です

金融機関のシステムにおいても、認証セキュリティの強化は常に最優先課題です

パスワードを使わない認証方式への移行は、お客様の大切な資産と情報をより安全に守る上で不可欠な流れだと考えます

この変化に不安を感じるかもしれませんが、パスキーへの移行は、私たちのデジタルセキュリティをより強固にし、日々のオンライン体験をより快適にするためのものです

指示に従ってスムーズにパスキーを設定すれば、推測されやすいパスワードやフィッシング詐欺に怯えることなく、安全で快適なデジタルライフを送れるようになるでしょう

ぜひこの機会に、ご自身のセキュリティ習慣を見直し、パスワードレスな未来への準備を進めてみてください